このチュートリアルでは、2D Film Bulk Acoustic Resonator(FBAR)の解析方法を紹介します。デバイスのインピーダンスとモード形状を解析します。
このチュートリアルの主な内容です。
- OnScale Designerの基本的な作業フロー
- 2次元モデルの指定方法
- プリミティブ形状の作成方法
- 材料物性の編集方法
- 回路を追加する方法
- 結果処理(1.967 MHzにおけるY方向変位のモード形状)
対応バージョン: OnScale 1.28.10
FBARとは?:FBARは、2つの電極の間に挟まれた圧電材料で構成される音響的に絶縁されたデバイスです。数マイクロメートルから10分の1マイクロメートルまでの厚さの圧電フィルムを使用したFBARデバイスは、約100 MHzから10 GHzの周波数範囲で共振します。 窒化アルミニウムと酸化亜鉛は、FBARで使用される一般的な圧電材料です。FBARは、電話やその他のワイヤレスアプリケーションで使用される無線周波数(RF)フィルターで使われています。フィルターは、共振器のネットワークから作成されています。特定の周波数を受信をできるようになっており、不要な周波数は送信されないようになっています。これらのネットワークは通常、ハーフラダー(half-ladder)、フルラダー(full-ladder)、ラティス(lattice)、またはスタックトポロジー(stacked topologies)になっています。デバイスが何らかの形の機械的圧力を受けるとその共振周波数がシフトします。この時は、FBARはセンサー製品でも使用されます。
解析の概要
電極や圧電層の厚さは、デバイスが動作する周波数範囲を決定します。FBARを解析できることは設計の時に役立ちます。周波数の範囲、品質係数、その他の多くの性能特性に対して、解析を用いて最適な組み合わせを探すことができます。チュートリアルでは、2次元FBARモデルを使用します。
2次元FBARモデルは、圧電活性層(窒化アルミニウム)、モリブデン電極、およびシリコン基板材料から構成されています。AlN層に電圧を印加し、インピーダンスとモード形状について解析します。
表1: 解析モデル、及び解析結果の概要
モデル: |
FBAR |
メッシュサイズ: |
波長に対して1/20分割サイズ |
解析の実時間 | 2.7μ秒 |
出力結果: |
- インピーダンス(グラフ) - 1.967 GHzにおけるY方向変位のモード形状(コンター図) |
解析で使用する材料物性を示します。
表2: 材料物性値
材料名 | OnScaleデータベース内の名前 | 密度 | バルク速度 | せん断速度 | Poling |
窒化アルミニウム | aln | 3230 kg.m-3 | - | - | Y+ |
モリブデン | moly | 10220 kg.m-3 | 6649.79 ms-1 | 3509.29 ms-1 | - |
シリコン | si | 2330 kg.m-3 | 7526 ms-1 | 4346 ms-1 | - |
注: OnScaleの材料物性データベースでは、弾性率とポアソン比の代わりにバルク速度とせん断速度を値を使って定義しています。 両者の関係性について詳細を知りたい方は、ここのページをご参照下さい。
解析のワークフロー
以下、各ステップ毎にワークフローを説明します。
Step1 - 新規プロジェクトの作成
- New Projectをクリックします。
- プロジェクトの名前を入力します。(ここでは、FBAR)
- 距離の単位系をμmに変更します。
- Model Typeで2D Modelを選択します。
- ファイルを保存しておく作業フォルダを選択します。
- 最後にOKをクリックしパネルを閉じます
Step2 - 対象となる周波数の指定
解析の対象となる周波数を入力します。
- Set up→Project Settingsを展開します。
- PropertiesにあるFrequency of Interest (Optional)を展開します。
- Frequency of Interest (Optional)にチェックを入れます。
- Value(Hz)に1.9e9を入力します。
- Frequency of Damping(Optional)を展開します。
- Frequency of Damping(Optional)にチェックを入れます。
- Value(Hz)に1.9e9を入力します。
Step3 - 材料物性の選択
OnScaleに搭載されている材料物性データベースから解析で使用する材料を選択します。
モリブデン
- Setupツリーの下にあるMaterialsの隣の+をクリックします。
- Materials Databaseパネルの左上、Add New Materialをクリック、プルダウンメニューでAdd Project Materialを選択します。新しくAdd Materialパネルが開きます。
- Material DescriptionにMolybdenumと入力します。
- Material Nameにmolyと入力します。
- Material CategoryのプルダウンメニューでMetalを選択します。
- PropertiesにあるDampingにチェックを入れ、Valueに物性値を入力してきます。
- Densityに10220を入力します。
- Bulk Velocityに6649.79を入力します。
- Shear Velocityに3509.29を入力します。
- Damping UnitsのプルダウンメニューdB/MHz/cmを選択します。
- Bulk Attenuationに0.1を入力します。
- Shear Attenuationに0.3を入力します。
- Bulk Power Lawに1を入力します。
- Shear Power Lawに1を入力します。
- 最後にSaveをクリックします。Materialsツリーの下にmolyが作成されます。
窒化アルミニウム
Project Materialsクリックし、材料物性データベースを展開します。
- 左のGlobal DatabaseにあるPiezoelectricを展開します。
- Aluminium Nitride- alnをダブルクリックしてください。
注: PolingをY+へ変更すること忘れないでください。
シリコン
- 左のGlobal DatabaseにあるMiscを展開します。
- Silicon, generic - siをダブルクリックします。
- Dielectricを展開し、EpsXに1を入力します。
Step4 - 形状の作成
プリミティブ形状作成機能を用いてFBARの2次元モデルを作成します。
シリコン基板
- 2D PrimitivesのRectangleをクリックします。クリック後、Primitivesのツリーの下にprimitive_1が作成されます。
- primitive_1をクリックします。
- PropertiesにあるMaterialをsiに設定します。
- End(μm)を展開し、X(μm)に230を入力します。
- Y(μm)に2を入力します。
- ワークスペース(モデルが表示されている部分)を右クリックし、Reset Viewをクリックすると、表示がリセットされます。
キャビティ
次にキャビティ形状を作成します。
- primitive_1を右クリックしてDuplicate Selectionをクリックすると、primitive_2が作成されます。
- PropertiesにあるMaterialをvoidに設定します。
- Begin(μm)を展開し、X(μm)に10を入力します。
- End(μm)を展開し、X(μm)に220を入力します。
下部電極
次に下部電極の形状を作成します。
- primitive_2を右クリックしてDuplicate Selectionをクリックすると、primitive_3が作成されます。
- PropertiesにあるMaterialをmolyに設定します。
- Begin(μm)を展開し、Y(μm)に2を入力します。
- End(μm)を展開し、X(μm)に2.4を入力します。
圧電層
次に圧電層の形状を作成します。
- primitive_3を右クリックしてDuplicate Selectionをクリックすると、primitive_4が作成されます。
- PropertiesにあるMaterialをalnに設定します。
- Begin(μm)を展開し、Y(μm)に2.4を入力します。
- End(μm)を展開し、Y(μm)に3.2を入力します。
上部電極
次に下部電極の形状を作成します。
- primitive_4を右クリックしてDuplicate Selectionをクリックすると、primitive_5が作成されます。
- PropertiesにあるMaterialをmolyに設定します。
- Begin(μm)を展開し、X(μm)に15を入力します。
- Y(μm)に3.2を入力します。
- End(μm)を展開し、X(μm)に215を入力します。
- Y(μm)に3.6を入力します。
- primitive_5を右クリックしてDuplicate Selectionをクリックすると、primitive_6が作成されます。
- PropertiesにあるMaterialをmolyに設定します。
- Begin(μm)を展開し、Y(μm)に3.6を入力します。
- End(μm)を展開し、X(μm)に17.0を入力します。
- Y(μm)に3.8を入力します。
- primitive_6を右クリックしてDuplicate Selectionをクリックすると、primitive_7が作成されます。
- Begin(μm)を展開し、X(μm)に213を入力します。
- End(μm)を展開し、X(μm)に215を入力します。
Step5 - 入力する(電圧の)波形の指定
駆動電圧の波形を設定します。波形には周波数1GHzのRicker Wavelet関数を使用します。
- Forcing Functionsを展開し、Timeの隣の+をクリックします。
- プルダウンメニューからRicker Waveletを選択します。
- Drive Frequency (Hz)に1e9を入力します。
- Insertをクリックしてパネルを閉じます。Timeの下に、timefunc_1のツリーが新規作成されます。
Step6 - 回路の設定
回路を指定します。
- Circuitの隣の+をクリックします。
- 回路の2と3の間の線をクリックします。
- 左の電子部品の中から抵抗を選択します。
- 抵抗をクリックします。
- Resistanceの0.001を入力します。
- Insertをクリックしてパネルと閉じます。circuit_1が作成されます。
Step7 - メッシュサイズの指定
メッシュのサイズを指定します。
- Model→Meshを展開します。
- Configurationを選択します。
- PropertiesにあるDefinitionsでWavelength Basedを選択します。Elements per Wavelengthは20のままにします。
- Mesh VelocityでDefinedを選択します。
- Mesh Velocityを展開します。
- Value (ms-1)に6000.0を入力します。
Step8 - 電極・ピエゾ間にかける電圧の指定
まず電極を作成します。
- Model→Boundary Conditionsを展開します。Loadの隣にある+をクリックします。クリックすると、Load Definitionが開きます。
- Creation ModeのプルダウンメニューでGeometry Interfaceを選択します。
- Geometryでprimitive_4(aln)を選択します。
- Interfacing ItemでBackground(void)を選択します。
- Create Loadをクリックすると、Loadツリーの下にload_1が作成されます。
- 同様に、Geometryでprimitive_3(moly)、Interfacing Itemでprimitive_4(aln)を選択してCreate Loadをクリックします。Loadツリーの下にload_2が作成されます。
- 同様に、Geometryでprimitive_4(aln)、Interfacing Itemでprimitive_5(moly)を選択してCreate Loadをクリックします。Loadツリーの下にload_3が作成されます。
作成した電極の設定します。
- load_1をクリックします。PropertiesにあるLoad Typeで、プルダウンメニューでVoltageを選択します。
- Area Scalingに0.0002を入力します。
- Circuit(Optional)でcircuit_1を選択します。
- Terminationでtimefunc_1を選択します。
- Amplitude Scale Factorに1を入力します。
- Minimum(μm)を展開し、Y(μm)に3.2を入力します。
- Maximum(μm)を展開し、Y(μm)に3.2を入力します。
- 上記の1~5を、Load_3に対しても行います。
- load_2をクリックします。
- PropertiesにあるLoad Typeで、プルダウンメニューでVoltageを選択します。
- Area Scalingに0.0002を入力します。
- TerminationでGroundを選択します。
Step9 - 境界条件の設定
境界条件を設定します。
- Boundary Conditionsの下にあるDomain Boundariesを展開します。
- PropertiesにあるX minimumを展開します。Boundary TypeをFixedへ変更します。
- X Maximumを展開します。Boundary TypeをFixedへ変更します。
- Y minimumを展開します。Boundary TypeをFixedへ変更します。
- Y Maximumを展開します。Boundary TypeをFreeへ変更します。
Step10 - 解析計算時間の指定
解析計算は、実時間で2.7[μs]まで計算を行います。
- Analysisをクリックします。
- Propertiesを展開し、Simulation Run Timeに2.7e-6を入力します。
Step11 - 計算結果出力の設定
1.967GHzにおけるY方向変位のモード形状(コンター図)の出力を設定します。
2GHzにおける速度Y成分のコンター図
- Outputsの横にある+をクリックします。
- Propertiesを展開し、Output TypeをShape Dataへ変更します。
- Array TypeをDisplacementへ変更します。
- Array ComponentをYへ変更します。
- Frequency(Hz)に1.967e9を入力します。
Step12 - クラウド上で解析実行
モデルの設定が完了しましたので、クライド上で解析を実行します。
- Run on Cloudをクリックします。
- Estimateをクリックして計算で消費するコア時間(概算)を算出します。
- Runをクリックします。
解析結果ファイルをローカルマシンへダウンロードする方法
計算終了後、解析結果ファイルをローカルマシンへダウンロードする必要があります。ダウンロードは結果処理を行うために必要です。
- Storageをクリックします。
- Jobのプルダウンメニューからジョブ名を選択します。
- Simulation_1を展開します。
- Ctrlキーを押しながらshape.flxdato, .flxhst fileを選択します。右クリックしてDonwnload Selectionを選択します。
Step13 - 結果処理
結果処理はPost-processorで行います。
DesignerからPost-processorへGUIをスイッチ
アイコンをクリックして、Post-processorのGUIへスイッチします。
解析結果のロード
- File Explorerをクリックし、フォルダ1を展開します。
- shape.flxdatoをクリックします。
- .flxdatoをダブルクリックします。
- .flxhstをダブルクリックします。
インピーダンス(グラフ)
- Flex History→FBAR, pize load3:Voltageを選択します。
- リボンタブのHomeにある、Impedanceをクリックします。
- Frequency History→FBAR_freqにあるImpd:load3.ampをダブルクリックします。
- yAxisのLog yAxisをクリックして、セミログプロットにします。
- xAxisのxAxis Minimumに1.8e9を入力します。
- xAxisのxAxis Maximumに2.2e9を入力します。
1.967GHzにおけるY方向変位のモード形状(コンター図)
- Data out→FBAR-shape→Grid→Mode-Shapesを展開します。
- Mode-1を展開します。
- ydsp上で右クリックします。
- Plot Shape Movieを選択します。
- incompatible Viewsパネルが表示された場合はContinueをクリックしてください。
- Scale Factorに0.005を入力します。
- 再生ボタンをクリックして、モード形状のアニメーションを表示します。
まとめ
このチュートリアルでは、2D Film Bulk Acoustic Resonator(FBAR)の解析方法を紹介しました。デバイスのインピーダンスとモード形状について解析しました。 チュートリアルの内容やモデルファイル等が必要でしたら弊社サポートまでお問合せ下さい。