このチュートリアルでは、2次元モデルを用いてSMR型BAWフィルタの解析方法を紹介します。解析により、デバイスの最大速度とインピーダンス、およびモード形状について解析します。
このチュートリアルの主な内容です。
- OnScale Designerの基本的な作業フロー
- 2次元モデルの指定方法
- プリミティブ形状の作成方法
- 作成した形状を複製する方法
- 形状のパターンを作成する方法
- 材料物性のコピー方法
- 結果処理(最大速度、2GHzにおける速度分布、インピーダンス)
対応バージョン: OnScale 1.28.10
SMRとは: BAWフィルタの一種で、マイクロ波操作機器のための薄膜バルク音響共振器です。通常、共振器上に作成された基板に取り付けられ、厚さ1/4波長のレイヤーです。
解析の概要
SMRでは、通常、基板損失を低減して高品質係数を維持するために音響ミラー(ブラッグ層)が使用されます。OnScaleにより、損失を最小限に抑える設計を検討することが可能になります。
2次元モデルは、シリコン基板、二酸化ケイ素とタングステンの複数レイヤー、複数レイヤー上のある窒化アルミニウム層をモデル化しています。
表1: 解析モデル、及び解析結果の概要
モデル: |
SMR |
メッシュサイズ: |
波長に対して1/15分割サイズ |
解析の実時間 | 2.5μ秒 |
出力結果: |
- 速度Y成分の最大(コンター図) - 2GHzにおける速度Y成分(コンター図) - インピーダンス(グラフ) |
解析で使用する材料物性を示します。
表2: 材料物性値
材料名 | OnScaleデータベース内の名前 | 密度 | バルク速度 | せん断速度 | Poling |
窒化アルミニウム | aln | 3260 kg.m-3 | - | - | Y+ |
シリコン | si | 2330 kg.m-3 | 7526 ms-1 | 4346 ms-1 | - |
酸化シリコン | sio2 | 2650 kg.m-3 | 5750 ms-1 | 2200 ms-1 | - |
タングステン | tung | 19400 kg.m-3 | 5200 ms-1 | 2900 ms-1 | - |
窒化アルミニウム (コピー) |
aln | 3260 kg.m-3 | - | - | Y+ |
注: OnScaleの材料物性データベースでは、弾性率とポアソン比の代わりにバルク速度とせん断速度を値を使って定義しています。 両者の関係性について詳細を知りたい方は、ここのページをご参照下さい。
解析のワークフロー
以下、各ステップ毎にワークフローを説明します。
Step1 - 新規プロジェクトの作成
- New Projectをクリックします。
- プロジェクトの名前を入力します。(ここでは、SMR)
- 距離の単位系をμmに変更します。
- Model Typeで2D Modelを選択します。
- ファイルを保存しておく作業フォルダを選択します。
- 最後にOKをクリックしパネルを閉じます
Step2 - 対象となる周波数の指定
解析の対象となる周波数を入力します。
- Set up→Project Settingsを展開します。
- PropertiesにあるFrequency of Interest (Optional)を展開します。
- Frequency of Interest (Optional)にチェックを入れます。
- Value(Hz)に2e9を入力します。
- Frequency of Damping(Optional)を展開します。
- Frequency of Damping(Optional)にチェックを入れます。
- Value(Hz)に2e9を入力します。
Step3 - 材料物性の選択
OnScaleに搭載されている材料物性データベースから解析で使用する材料を選択します。
窒化アルミニウム
- Project Materialsクリックし、材料物性データベースを展開します。
- 左のGlobal DatabaseにあるPiezoelectricを展開します。
- Aluminium Nitride- alnをダブルクリックしてください。
注: PolingをY+へ変更すること忘れないでください。
シリコン/酸化シリコン
- 左のGlobal DatabaseにあるMiscを展開します。
- Silicon, generic - siをダブルクリックします。
- Silicon Dioxide, generic - sio2をダブルクリックします。
タングステン
- 左のGlobal DatabaseにあるMetalを展開します。
- Tungsten, generic - tungをダブルクリックします。
窒化アルミニウム(コピー)
窒化アルミニウムの物性データをコピーします。
- alnの上で右クリックします。
- Material Nameでaln2を入力します。
- OKをクリックします。
- Doneをクリックしてパネルを閉じます。
注: PolingをY+へ変更すること忘れないでください。
Step4 - 形状の作成
プリミティブ形状作成機能を用いてSMRの2次元モデルを作成します。 形状は、シリコン基板、ブラッグ層、および共振器から構成されています。
シリコン基板
- 2D PrimitivesのRectangleをクリックします。クリック後、Primitivesのツリーの下にprimitive_1が作成されますので、primitive_1をクリックします。
- PropertiesにあるMaterialをsiに設定します。
- End(μm)を展開し、X(μm)に100を入力します。
- Y(μm)に2を入力します。
Braggレイヤー
次に、5つのBraggレイヤーを表すためにジオメトリを追加します。
- 2D PrimitivesのRectangleをクリックします。クリック後、Primitivesのツリーの下にprimitive_2が作成されますので、primitive_2をクリックします。
- PropertiesにあるMaterialをtungに設定します。
- Begin(μm)を展開し、Y(μm)に2を入力します。
- End(μm)を展開し、X(μm)に100を入力します。
- Y(μm)に2.65を入力します。
- Pattern TypeをLinerへ変更し、Num. of Repsを展開、Xに1を入力します。
- Y(μm)に5を入力します。
- Separation Distance(μm)を展開し、Xに0を入力します。
- Yに1.39を入力します。
- 2D PrimitivesのRectangleをクリックします。クリック後、Primitivesのツリーの下にprimitive_3が作成されますので、primitive_3をクリックします。
- PropertiesにあるMaterialをsio2に設定します。
- Begin(μm)を展開し、Y(μm)に2.65を入力します。
- End(μm)を展開し、X(μm)に100を入力します。
- Y(μm)に3.39を入力します。
- Pattern TypeをLinerへ変更し、Num. of Repsを展開、Xに1を入力します。
- Y(μm)に5を入力します。
- Separation Distance(μm)を展開し、Yに1.39を入力します。
窒化アルミニウム(共振器)
Bragg層を追加したので、最後に圧電層を追加して共振器として機能させます。
- 2D PrimitivesのRectangleをクリックします。クリック後、Primitivesのツリーの下にprimitive_4が作成されますので、primitive_4をクリックします。
- PropertiesにあるMaterialをalnに設定します。
- Begin(μm)を展開し、Y(μm)に8.95を入力します。
- End(μm)を展開し、X(μm)に50を入力します。
- Y(μm)に1.17を入力します。
- 2D PrimitivesのRectangleをクリックします。クリック後、Primitivesのツリーの下にprimitive_5が作成されますので、primitive_5をクリックします。
- PropertiesにあるMaterialをaln2に設定します。
- Begin(μm)を展開し、X(μm)に50.0を入力します。
- Y(μm)に8.95を入力します。
- End(μm)を展開し、X(μm)に100を入力します。
- Y(μm)に11.7を入力します。
作成したSMRの2次元モデル形状は以下のようになります。
Step5 - 入力する(電圧の)波形の指定
駆動電圧の波形を設定します。波形には周波数2 GHzのRicker Wavelet関数を使用します。
- Forcing Functionsを展開し、Timeの隣の+をクリックします。
- プルダウンメニューからRicker Waveletを選択します。
- Drive Frequency (Hz)に2e9を入力します。
- Insertをクリックしてパネルを閉じます。Timeの下に、timefunc_1のツリーが新規作成されます。
Step6 - メッシュサイズの指定
メッシュのサイズを指定します。
- Modelを展開します。
- Meshを展開します。
- Configurationを選択します。
- PropertiesにあるDefinitionsでWavelength Basedを選択します。Elements per Wavelengthは15のままにします。
- Mesh VelocityでDefinedを選択します。
- Mesh Velocityを展開します。
- Value (ms-1)で6000.0を入力します。
Step7 - ピエゾにかける電圧の指定
まず電極を作成します。
- Model→Boundary Conditionsを展開します、Boundary Conditionsの下にLoadsがあります。
- Loadの隣にある+をクリックします。クリックすると、Load Definitionが開きます。
- Creation ModeのプルダウンメニューでGeometry Interfaceを選択します。
- Geometryでprimitive_4(aln)を選択します。
- Interfacing Itemでside 4(ymax)を選択します。
- Create Loadをクリックすると、Loadツリーの下にload_1が作成されます。
- 同様に、Geometryでprimitive_4(aln)、Interfacing Itemでprimitive_3(sio2)を選択してCreate Loadをクリックします。Loadツリーの下にload_2が作成されます。
作成した上部の電極(load_1)と下部の電極(load_2)に対して、上部を駆動、下部を接地するように設定します。
- load_1をクリックします。
- PropertiesにあるLoad Typeで、プルダウンメニューでVoltageを選択します。
- Area Scalingに0.0002を入力します。
- Terminationでtimefunc_1を選択します。
- Amplitude Scale Factorに1を入力します。
- load_2をクリックします。
- PropertiesにあるLoad Typeで、プルダウンメニューでVoltageを選択します。
- Area Scalingに0.0002を入力します。
- TerminationでGroundを選択します。
Step8 - 境界条件の設定
境界条件を設定します。
- Boundary Conditionsの下にあるDomain Boundariesを展開します。
- PropertiesにあるX minimumを展開します。Boundary TypeをSymmetryへ変更します。
- X Maximumを展開します。Boundary TypeをImpedanceへ変更します。
- Densityに3385を入力します。
- Longitudinal Velocityに11099.6を入力します。
- Shear Velocityに6012.87を入力します。
- Y minimumを展開します。Boundary TypeをImpedanceへ変更します。
- Densityに3385を入力します。
- Longitudinal Velocityに11099.6を入力します。
- Shear Velocityに6012.87を入力します。
- Y Maximumを展開します。Boundary TypeをFreeへ変更します。
Step9 - 解析計算時間の指定
解析計算は、実時間で2.5e-6[sec]まで計算を行います。
- Analysisをクリックします。
- Propertiesを展開し、Simulation Run Timeに2.5e-6を入力します。
Step10 - 計算結果出力の設定
2つの出力を設定します。
- 速度Y成分の最大(コンター図)
- 2GHzにおける速度Y成分(コンター図))
速度Y成分の最大のコンター図
- Outputsの横にある+をクリックします。
- Propertiesを展開し、Output TypeをField Dataに変更します。
- Array TypeでVelocityを選択します。
- Array ComponentでYを選択します。
- Field TypeでMaximumを選択します。
2GHzにおける速度Y成分のコンター図
- Outputsの横にある+をクリックします。
- Propertiesを展開し、Output TypeをData Snapshotへ変更します。
- Array TypeをVelocityへ変更します。
- Array ComponentをYへ変更します。
- Frequency(Hz)に2e9を入力します。
Step11 - クラウド上で解析実行
モデルの設定が完了しましたので、クライド上で解析を実行します。
- Run on Cloudをクリックします。
- Estimateをクリックして計算で消費するコア時間(概算)を算出します。
- Runをクリックします。
解析結果ファイルをローカルマシンへダウンロードする方法
計算終了後、解析結果ファイルをローカルマシンへダウンロードする必要があります。ダウンロードは結果処理を行うために必要です。
- Storageをクリックします。
- Jobのプルダウンメニューからジョブ名を選択します。
- Simulation_1を展開します。
- Ctrlキーを押しながらshape.flxdato, flxdato, flxhst fileを選択します。右クリックしてDonwnload Selectionを選択します。
Step11 - 結果処理
結果処理はPost-processorで行います。
DesignerからPost-processorへGUIをスイッチ
アイコンをクリックして、Post-processorのGUIへスイッチします。
解析結果のロード
- File Explorerをクリックし、フォルダ1を展開します。
- shape.flxdatoをクリックします。
- .flxdatoをダブルクリックします。
- .flxhstをダブルクリックします。
速度Y成分の最大(コンター図)
- Data out→SMR-shape→Grid→Mode Shpesを展開します。
- Mode-1をダブルクリックします。
- yvel上で右クリックし、Plot Shape Movieを選択します。
- Scale Factorに0.01を入力します。
- 再生ボタンをクリックしてアニメーションを再生します。
2GHzにおける速度Y成分(コンター図)
- Data out→SMR→Time-179652を展開します。
- yvmxをダブルクリックします。
- incompatible Viewsパネルが表示された場合はContinueをクリックしてください。
- リボンタブのModel Graphicsをクリック、Surface Plotをクリックします。
- 見やすいように、必要に応じてモデルを回転させてください。
インピーダンス(グラフ)
- Flex History→SMR, pize load1:Voltageを選択します。
- リボンタブのHomeにある、Impedanceをクリックします。
- Frequency History→SMR_freqにあるImpd:load1.ampをダブルクリックします。
- incompatible Viewsパネルが表示された場合はContinueをクリックしてください。
- yAxisのLog yAxisをクリックして、セミログプロットにします。
- xAxisのxAxis Minimumに1.8e9を入力します。
- xAxisのxAxis Maximumに2.2e9を入力します。
まとめ
このチュートリアルでは、2次元モデルを用いてSMR型BAWフィルタの解析方法を紹介しました。解析により、デバイスの最大速度とインピーダンス、およびモード形状について検討しました。 チュートリアルの内容やモデルファイル等が必要でしたら弊社サポートまでお問合せ下さい。